シルバーウィーク読書感想文
幽霊たち(P.オースター)
80年代のアメリカ文学の代表作で、何も起きない探偵もの小説。”何も起きないこと” によって、主人公の自己対話や、想像を中心に描かれる。
印象に残っているのは(主人公は1年くらいある男を監視する仕事を依頼されているが、特に何か事件が起こるわけでなく、ひたすら一人の男を観察し続けるだけの日々が過ぎてゆき、その平凡さに苛立ちを感じていた。そんな中)
「これでは自分の人生を生きていると言えるだろうか、半分くらいは他人の人生を生きている気がする」
というセリフだ。
他人の人生を生きるとか、自分の人生を生きるとか
もちろん全て自分の人生なんだけれども、スティーブジョブズのスピーチを思い出した。
Your time is limited, so don’t waste it living someone else’s life.
自分の時間(命)には限りがあるんだ。他人の人生でその時間を浪費してはいけないよ。ということだ。
会社員時代に婚礼ポータルサイトの立上げに2年程携わらせて頂いた。先輩が新規事業として役員会で承認を受けてスタートさせたものだ。先輩のことは尊敬していたし、事業としても魅力的なものであったので、一生懸命であったが、ふと我にかえるところがあった。
「これは、僕自身がやりたいことなのだろうか」
結果として、非常に勉強になったし、その時に出来た人脈は、今大きな財産になっており、大変感謝している。それでも、上記の様に、不安を抱えていたことを思い出した。
他人の時間を頂く経営者としての義務・役割
どんなに綺麗事を言っても、経営者は人の時間を奪うし、頂いている。その時間に対して対価を支払うのは当然なのだが、その時間をかけてもらうだけの意義や意味は示せたらなと思うし、感じてもらえればと思う。
難しいことなんだけれど、そういう経営者でありたいと思う。
「糸杉」短編集Aより(中村文則)
中村文則さんの短編小説。
あらすじ
失業中の男が、歌舞伎町でフラフラと女の人の後をつける。するとその女達が、何故か洩れなく風俗店に入ってゆき、その様を男が目撃するという「ほぼストーカー」な話である。
ゴッホの「糸杉」が都内の美術館で展示されていた。男は「糸杉」にたまらなく惹かれていて、何度何度も美術館を訪れては「糸杉」に見入っていた。ある日「糸杉」の前に一人の女性が佇んでおり、その後ろ姿に惹かれて、男はまた後をつける。すると、清楚な雰囲気だったその女性までも何と風俗店に入っていく!
どういう話なんだと、笑ってしまったが、物語は終始そんな感じで進行し、そのまま終わっていく。
ごった返す京都駅で人の波に溶ける(気がした)
前日、気心知れた先輩方と京都で飲んでおり、名古屋に帰れなくなったのでホテルで一泊して次の日帰ることにした。シルバーウィーク2日目、日曜の京都駅は人でごった返し、その日は帰るだけで、集中力を欠いたボケっとした僕は、まるで人の波に溶けて、存在がなくなったような気がした。
ボケっとした僕は、(見た目も雰囲気も)たいがいボケっとしていて、知り合いとすれ違っても全く気づかれない。向かいから歩く通行人からしても、何ら意識・認識・知覚する必要のない「物体」として避けるだけの存在だったろう。
つくづく、自分自身が存在していることの実感は、他者との繋がりの中でしかないなと思う。
他人から認識されたり、強く意識されることで「自分」というものを強く感じることができる。
「糸杉」の話のテーマもそんなものだと思っていて、(この場合逆だが)男は他人(女)の後をつけて、強く意識することで、かろうじて自分の存在が浮かび上がり、失業中で不安で消え入りそうな自己に実感を与える。みたいなことだと思う。
この作家さんの作品は面白いんだけど、自分の感性だとか、癖だとかを淀みなく晒すので凄いと思う(笑)
蛭子能収のゆるゆる人生相談(蛭子能収)
タイトル通り緩い人生相談。読んでる時は「何も得るものがない」と思っていたが(失礼)
「大村競艇はインコースが有利なコースである」という知識が知れた。
あと、よくわからないが、「人に優しくしよう」と思わせてくれるなんともアットホームな文章だった。
えびす顔とはよく言ったものだ。