そのマネジメントは人に力を与えているか
プロローグ
「じゃぼーん」と、体格の良い大男が水風呂に飛び込む。
水に濡れたロングのツイストパーマは、一瞬で直毛に早変わり。
ぶはっぶはっ、と水で顔を洗う男について、普段このサウナで見かけることはない。
その様はワイルドとも言えるし、かけ湯もせずに水風呂に飛ぶこむ感じは、ちょっと小汚いとも言える。
本編
ぼーっと観察していると、その男の元に、ほぼ同じ体型でほぼ同じ顔の二人の男が近づいてゆく。
あまりに似ている。
間違いなく兄弟だろう。
ツイストパーマに、ロン毛に、ショートの金髪。
顔はほとんど清竜人と一緒で、チョビ髭に特徴的な目が合計6つ付いていた。
新宿スワンに名物三兄弟として出てきても不思議ではない。
あまりに似ているので、清竜人本物かと疑えるレベルであったが、
最近Yahooニュースで清竜人がタトゥーを入れたことを思い出した。
「じゃあ違うか」と思ったが、
もしかしたら一人の清竜人が三人に分身してその分タトゥーも薄まって、消えているだけかも。
と、この世に何の価値ももたらさない妄想一人遊びを行っていた。
ロウリュイベントに参加するため大サウナ室に入る。
清は三人とも部屋に入ってきた。
イベントが始まる。
「初めてロウリュを受けられる方はいますか〜?」
(シーン)と誰も手を挙げない。
「熱くなりますので無理はされないでください」
(しばらくロウリュイベントが続く)
「あっ、失敗しちゃった」
「すみません。僕実は今月入社したばかりで、まだ上手にタオルを振れないんですよね。
でも、精いっぱい振りますので皆さん宜しくお願いします」
(パチパチパチと拍手)
「今日も休みだったんですけど、練習に来たら、ロウリュさせてもらえることになったんで、
時間は気にせずいくらでも扇ぎますので、是非最後までお付き合いください」
彼は、男に好かれそうな男だなと思った(無論セクシャルな意味ではなく)。
良い奴な感じがするし、何よりも彼は人に力を与えるタイプの人間だと思った。
事実、20名近く、ほとんどの参加者が、イベントが終わる最後までサウナ室に残った。
「是非最後までお付き合いください」という言葉と彼の姿勢に、
途中退席することで水を差したくないと皆が思ったのだと考えている。
清も嬉しそうに拍手をし、熱波を受け止めていた。
さて、ロウリュを経て、水風呂を経て、ととのいタイム中
ふと「自分のマネジメントは人に力を与えているか?」
と疑問が浮かんだ。
この時は力を与えられた。この時は奪った。この時は…と様々なシーンを思い出した。
産業革命以後のムチを持った工場長ではないのだ。
マネジメントは人に力を与えなければならない。
0を最小値、1を最大値とした能力と仕事の難易度の縦横軸で、
縦軸0.7から下、横軸0.8以上のエリアをマネジメントする時に、
フィードバックが細かくなり過ぎて失敗するケースが多いことに気がついた。
0.8以上の仕事は分解して難易度を下げないと個人依存となり組織の生産性は上がらない。
そうした仕事が残っていること自体が問題なのだ。
マネジメントは力を与える行為であるべきだ。
その為にはコミュニケーションも必要であるし、仕組の解決も必要だ。
今日気がついた課題は1ヶ月以内に絶対解決する。
エピローグ
清Aは、丸椅子にあぐらをかいてパンイチで自慢のロン毛を乾かしていた。
「悟空かよ」と思い、この演技掛かった、漫画の主人公の様な立ち居振舞いに、強烈な違和感を覚えた。
「清竜人とドラゴンボール…」
そう思うと、清三兄弟のチョビ髭が竜の髭のようにも見えてきた。
普段みかけない三人は、お忍びでサウナに来ていた、竜の化身だったのかもしれない。