【ビジネス編】怒ったら負けなのか?


ある上場企業の経営者が「怒ったら負け」だという趣旨のことを言っていた。その数カ月後、講演でも同様のコメントを行っていた。2度目に聞いた際に非常に心に引っかかり、もし「怒ったら負け」が正しければ自身もモノにしたいと思い、研究対象にした。果たして「怒ったら負け」は正しいのか?正しいとすれば何故正しいのか?当記事はこの検証を目的とする。

怒りを伴ったマネジメントが、ビジネスの業績に関してどう作用するかという参考論文は非常に少なく、最終的に独自に調査を行った。

【調査1】怒りマネジメントの有無と各種指標

インターネット調査で、200ほどにサンプルに対して「目標未達や問題が発生した際に、怒りを伴ったコミュニケーションを上司から取られるか」という質問を投げかけた。同時に年商・従業員数・社歴・5年前と比べての業績トレンドなども調査。下記図は結果。

【考察1−1】怒りマネジメントは業績に影響する

業績トレンドを見ると、怒りが「ない」企業の方が、「ある」企業よりも業績が良い。一方最も怒りがなかったのは業績が変わらなかった企業群であった。怒らないということが業績に良い影響を及ぼすかどうか有意性を示せる程の結果は出なかったが、怒りマネジメントを行うことが業績に影響を及ぼすことは間違いないと考えられる。

【考察1−2】会社規模に対して山なりの曲線を描く

年商や従業員別の図を見ると、小さな規模では怒りマネジメントが少なく、中堅規模で最も多く、大規模になるとまた減少している。これは大規模になるに連れ、ビジネスモデルが確立し、現場の運用で怒号を飛ばすよりも、仕組みで回っている為と推測される。

100億円以上の規模において、再び怒りマネジメントが上昇傾向にあるが、考えられる仮説として「従業員数が10,000人を越える大企業においては、組織が固定化し権力が腐敗することで、怒りマネジメントが発生。しかし、ビジネスモデルが優秀であるが故に業績に影響はなく問題は放置される」などがある。ただし現調査によって検証できるものではない。

【考察1−3】牧歌的な黎明期。怒りが実行度を上げないベテラン企業

社歴と怒りマネジメントの関係を見ていると、こちらも山なりの傾向があり、5年以下の創業期には怒りマネジメントが少なく、徐々に増え、11〜20年頃にピークを迎え、20年を越えると再び減少に転じている。

一般的に企業の黎明期においては、組織化がうまく行っておらず、どこが牧歌的なマネジメントを実施しているケースも少なくない。一方で10年生き残った5%の企業群(会社の10年生存率は5%程度)は、組織化しながら、ビジネスモデルを作っている不確定な要素の多い時期だと推測できる。

明確なルールが策定されていない中、スピード感を持ってビジネスモデル作りを行うには、多くの歪みが発生し、同時に怒りマネジメントも増加すると推測される。この時期は怒ることで、組織の実行度が高まる。

一方で20年を越えると、ベテラン社員も増え、怒りマネジメントを行っても、「社長また言っているよ」という空気感と共に、組織の実行度が上がらないことも想定される。

【調査2】業績別・年商別における怒りマネジメントの有無

【考察2−1】年商20億円以上の業績UP企業群は怒っていない

業績が良い企業群と、業績が悪い企業群を比較したところ、年商20億円以上のケースでは、業績の悪い会社ほど怒りマネジメントを実行していることがわかった。前述の考察【1−2】の様に、ビジネスモデルが優秀な企業群では怒る必要性がなくなる。結果は、2倍以上の差が出ており、成功している企業程怒りマネジメントを行っていないことが考えられる。

【考察2−2】5-20億円企業では、業績の良し悪しに関わらず怒っている

ビジネスモデルで、一気に伸ばす最中または、マンパワーで10億前後の売上を作っている規模の企業においては、営業マンの実行度、組織の実行度や「頑張り」がモノを言う為、怒りマネジメントを積極的に取り入れている可能性がある。

【調査3】業績別・従業員数別における怒りマネジメントの有無

【考察3】業績が良く、規模の大きな企業ほど怒りマネジメントを行っていない

業績UP群に関しては、山なりのグラフ。業績DOWN群は、全体的に怒りマネジメントを行っている。100名以上の規模においては、怒らないことと、業績の良さが正の相関関係にある。

【調査4】業績別・社歴別における怒りマネジメントの有無

【考察4】21年以上の企業では、怒りマネジメントの有無と業績の明暗がクッキリ

【考察1−3】の仮説と重複するが、ビジネスモデルを有している業績の良い企業ほど、戦略戦術の実行度を高めるのに、怒りマネジメントを必要としていない。有意差はほぼ3倍。

まとめ

大成功している企業ほど「怒りマネジメント」は少ない。つまり「怒ったら負け」だということは正しいといえる。

ただし「怒りマネジメントをしない」ことは十分条件であり、成功企業になる必要条件としてビジネスモデル他、影響を与える変数は多いと考えられる。